「その説明、何を言っているか分かりません」——技術的には正確な説明をしたはずなのに、非エンジニアの相手にそう言われて戸惑った経験はないでしょうか。
専門用語を使わずに仕組みを伝えるのは、実は技術力そのものとは別の「翻訳」のスキルです。この記事では、非エンジニアに説明が伝わらない理由と、今日から使える具体的な「翻訳」の型を、実務の場面に沿って解説します。
- 技術的に正しい説明が、非エンジニアに伝わらない理由
- 専門用語を身近な言葉に置き換える「翻訳」の型
- 進捗報告・バグ説明・見積もり交渉での具体的な翻訳例
- 翻訳力を鍛えるための練習方法
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なぜ技術的に正しい説明が「伝わらない」のか

非エンジニアとのコミュニケーションがすれ違う最大の原因は、説明の正確さではなく、前提知識の差です。エンジニアにとって「キャッシュ」「API」「リファクタリング」といった言葉は日常語ですが、非エンジニアの相手にとっては初めて聞く単語であることが少なくありません。
例えば、「このAPIのレスポンスが遅いのでキャッシュを導入します」という報告は、エンジニア同士なら1秒で伝わりますが、非エンジニアの上司には「何をするのか」「なぜ必要なのか」がまったく伝わらない可能性があります。技術的には何も間違っていない説明が、相手の頭の中では意味を結ばないまま流れていってしまうのです。
もう1つの原因は、抽象度の違いです。エンジニアは「実装の仕組み」から説明を始めがちですが、非エンジニアが本当に知りたいのは「自分の仕事にどう影響するか」という結論です。この順序のズレが、「説明は聞いたのに、結局何が言いたいのか分からなかった」という印象につながります。
非エンジニアに伝えるための「翻訳」の型
専門用語をそのまま使わず、身近な言葉に置き換える「翻訳」には、いくつかの型があります。
| 技術用語 | そのままの説明 | 翻訳した言い換え例 |
|---|---|---|
| API | 外部システムと連携するための接続窓口 | 「他のサービスとやり取りするための、決まったやり取りのルール」 |
| キャッシュ | 一時的にデータを保存して再利用する仕組み | 「よく使うものを、毎回取りに行かず手元に置いておく仕組み」 |
| バグ | プログラムの不具合・想定外の挙動 | 「想定していなかった動き方をしてしまっている状態」 |
| リファクタリング | 外部の挙動を変えずに内部構造を整理すること | 「見た目は変えずに、中の配線を整理整頓すること」 |
比喩に置き換える
専門用語を、相手がすでに知っている日常的なものに例えると、理解のハードルが大きく下がります。上の表のように、「キャッシュ」を「よく使うものを手元に置いておく仕組み」と言い換えるのが典型例です。比喩を選ぶときは、相手の業務に近い例(営業職なら顧客対応、事務職なら書類整理など)を使うと、より伝わりやすくなります。
結論・影響範囲を先に伝える
非エンジニアが知りたいのは「何を作ったか」ではなく「それによって何が変わるか」です。「〇〇という機能を実装しました」から話し始めるのではなく、「注文が今より3秒早く完了するようになります。そのために〇〇という仕組みを作りました」のように、影響範囲や結論を先に置き、技術的な詳細は後から補足する順序に変えるだけで、伝わり方は大きく変わります。
専門用語を使う場面と避ける場面を切り分ける
すべての場面で専門用語を避ける必要はありません。エンジニア同士の技術的な議論では、正確さを優先して専門用語をそのまま使うべき場面もあります。相手が非エンジニアかどうか、意思決定に技術的な詳細が必要かどうかを見極め、場面ごとに言葉選びを切り替える意識を持つことが重要です。
実際のビジネスシーンでの翻訳例

進捗報告の場面
「バックエンドのAPI実装が70%完了しました」ではなく、「ユーザーが情報を検索する機能の裏側部分が、7割ほどできあがっています。残りは、検索結果の表示速度を上げる調整です」のように、機能名と進捗の意味を紐づけて伝えると、非エンジニアの相手にも状況が伝わりやすくなります。
バグ説明の場面
「メモリリークが発生していて、再起動が必要です」ではなく、「システムが使うメモリという作業スペースが、少しずつ使われたまま解放されず、時間が経つと動きが遅くなる状態です。定期的な再起動で、この作業スペースをリセットしています」のように、原因と対処の関係を、身近な例に置き換えて説明します。
見積もり交渉の場面
「この改修は工数が大きいので難しいです」だけでは、非エンジニアの相手には納得材料になりません。「このボタンを追加するだけなら簡単ですが、裏側のデータの持ち方も一緒に変える必要があり、家で例えると壁紙を変えるだけでなく、配管の位置も見直すような作業になります。そのため、これだけの期間が必要です」のように、作業の性質を具体的なイメージに置き換えて伝えると、見積もりの妥当性が伝わりやすくなります。
翻訳力を鍛えるための練習方法

「翻訳」のスキルは、意識的な練習によって鍛えることができます。
- 非エンジニアの家族や友人に、自分の仕事を説明してみる:専門用語が伝わらない反応を直接受け取れるため、どの言葉が引っかかるかを把握しやすい
- 説明を書いた後、非エンジニアの同僚にレビューしてもらう:資料やチャットの文面を送る前に、一度非エンジニアの視点でチェックしてもらう習慣をつける
- 社内の非エンジニア向け勉強会で説明役を担当する:人に教える経験を積むことで、どの説明が伝わりやすいかの引き出しが増える
- 普段から一般的なニュースやビジネス書で使われる比喩表現をストックしておく:いざという時に使える「翻訳」の材料を普段から集めておく
こうした練習を重ねることで、技術力とは別の武器として、周囲からの信頼につながる「伝える力」が身についていきます。
まとめ:翻訳力は、技術力とは別に磨ける武器になる
非エンジニアとのコミュニケーションがすれ違う原因は、説明の正確さではなく、前提知識と抽象度の差にあります。専門用語を身近な比喩に置き換える、結論や影響範囲を先に伝える、場面によって言葉選びを切り替える——この3つの型を意識するだけで、伝わり方は大きく変わります。
「翻訳力」は、技術力そのものとは別に、練習によって磨いていける武器です。日々のちょっとした説明の積み重ねが、周囲からの信頼や、任される仕事の幅にもつながっていきます。





