お役立ち記事
発注者がシステム開発を依頼する前に知るべきこと7選 No7
システムの運用・保守とシステム導入効果の測定
受入テスト・納品されたシステムの検証方法では「受入テスト」について解説しました。これが完了すると、システムはいよいよ本番稼働となります。システムを「開発する」フェーズから、「運用する」フェーズへと切り替わります。
そこで今回は、「システムの運用・保守」と「システム導入効果の測定」についてお届けします。長い道のりを経てシステムを本番稼働したあと、プロジェクト主体者(発注側企業)が行うべきことについて解説します。
システムの運用・保守とは?
システムの運用・保守とは、本番稼働したシステムを運用し、ユーザーがシステムをスムーズに利用できるようサポートすることです。
システムのメンテナンスや障害発生時の対応といった技術面のサポートは、保守契約を結んだベンダーが行います。
一方、業務やサービスの現場では、プロジェクト主体者が以下のようなことを行っていく必要があります。
プロジェクト主体者(発注側企業)が行うべき保守業務(例)
- システム利用者からの問い合わせ対応
- 障害や不具合発生時の確認、利用者への周知
- 障害や不具合発生時のベンダーへの調査および修正依頼
- 社内およびベンダーとの仕様変更に関する調整
- システム利用マニュアルのアップデート
運用・保守体制とそれぞれの役割
現場がスムーズに運用を開始できるよう、業務を整理して担当を決める
システムが本番稼働すると、それ以降は現場のメンバーがシステムを使いながら業務を回していくことになると思います。ついては現場での運用がスムーズにスタートできるよう、システム導入によって発生する業務を事前に洗い出し、それぞれの担当を決めておくことをおすすめします。
例えば、
お客様から問い合わせメールがきたら、誰が対応するのか。
システムの利用マニュアルは誰が更新するのか。
マスターデータの管理責任は、誰が担うのか。
といったようなことを明確にしておく必要があります。
これらの準備を怠ると、運用開始後に「問い合わせに何日も返事をせず、クレームになった」「マスターに新しい項目が追加されず、業務に支障が出た」というようなトラブルを引き起こす可能性があります。そのようなことにならないよう、事前にしっかりと決めておきましょう。
積み残した課題を整理する
本番稼働までに解決できなかった障害や修正要望が残っている場合は、
その内容を整理し、ベンダーと相談しながら今後の対応を決めていきます。
まずベンダーと話す前に社内で認識合わせを行い、ベンダーに対して何をどこまで求めるかを明確にしておきます。優先順位もつけておきましょう。
ベンダーとの打ち合わせでは、積み残しの案件について、今回のプロジェクトの範囲で(無償で)対応してもらうものと、別費用で依頼するものを一つひとつ切り分けていきます。
ちなみにベンダーの過失による障害の場合は、無償で修正してもらうことができますので、きちんと根拠を伝え、対応してもらうようにしましょう。
優先度が低く、「いったんは見送り」とした修正に関しては、今後の保守フェーズで対応していくかどうか費用面を鑑みながら社内で検討していくといいでしょう。
積み残し課題以外にも、本番稼働後はいろいろなことが発生する
システムを本番稼働すると、発注担当者は現場からさまざまな問い合わせや要望を受けることになります。ベンダーに修正や調査を依頼する課題も数多く発生するでしょう。
つまり、運用・保守フェーズになってもなお、ベンダーとの関係は続くのです。
良いベンダーであれば発注側企業の立場に寄り添って対応してくれると思いますが、コミュニケーションはお互いのことなので、より良い関係を継続できるよう発注側企業としても意識されるといいでしょう。
システム導入効果を測定する
システムが本番稼働し、運用がスタートしました。しかし、プロジェクトはこれで終わりではありません。システムは、それを作ること自体が目的なのではなく、その先にある目的・ゴールを達成するために作るものだからです。
企画のときに設定した「目的・ゴール」を思い出してみましょう。
自社が抱えていた課題を、このシステムによってどう解決するのか。システム導入によって、どのような成果を得たいのか。「売上アップ」なのか、「作業時間の短縮」「業務効率化」なのか。運用が始まったら、その効果測定をしていくことが重要になります。
何を測定するのか?
何をもって「効果があった」とするかは、プロジェクトによって異なります。売上拡大のために自社のECサイトを立ち上げた場合と、業務効率化のために基幹システムを新しくした場合では、測定する項目も内容も全く違うものになります。
しかしいずれにしても、企画時に具体的な数字をゴールとして設定しているかと思います。これを達成できているかどうかを測定していきましょう。
いつ測定するのか?
システム導入の効果測定は、本番稼働の1〜2カ月後あたりから開始するのがいいでしょう。導入後すぐだと、現場がシステムの利用に慣れていないので、効果が出ているかどうかの判断をすることができません。かといって3カ月以上先だと少々遅すぎます。
その理由は、万が一運用を間違えていたり、システムに欠陥があったりした場合に、3カ月以上それに気づけないまま運用が継続されてしまう可能性があるためです。そうした理由から、1回目の効果測定は導入後1〜2カ月後あたりに行うのが時期的にも適しているといえるでしょう。
また、効果測定は定期的に行うことが重要です。現場からあがってくる課題に対して施策を打ち、改善し続けていくことはシステム導入の効果を最大化することにつながります。
どのように測定するのか?
効果測定には、システムを利用する現場メンバーの協力が必要となります。効果測定に必要となる測定項目のチェックリストを作り、回答してもらうようにします。
例えば「作業時間の短縮」を目指した業務システムであれば、作業時間を具体的に記載してもらい、システム導入前と導入後の数値を比較します。
使用感を聞くアンケートも有効です。その場合は選択肢の中から回答を選んでもらうようにしつつ、問題点があれば率直に指摘してもらえるよう自由記述欄も設けておきましょう。得られた結果をシステムの改善につなげていきます。
現場は、良くも悪くもシステムに寄せて運用する 〜工業用部品メーカー B社の場合〜
工業用部品を扱うB社では、長年使用してきた販売管理システムを新しいものに作り替え、運用を開始しました。システムの導入を担当したAさんは、無事に本番稼働したことに一安心。問題もなく、運用もうまくいっているようです。本当だったら効果測定もしたいと思ったAさんでしたが、「これまで随分と関連部門には時間を割いてもらったし、これ以上は頼みにくいな……」と気が引けていました。
そんな感じのまま6カ月以上が経過。上司からシステム導入の成果を聞かれたのを機に、Aさんは遅まきながら初めての効果測定を実施しました。フタを開けてびっくり! 間違った運用が行われていた
システムを使用する現場に向けてアンケートを行ったAさんは、その結果を見て驚きます。現場からは「検索がうまくできない」「必要な帳票が出せない」といった不具合の指摘や「使いにくい」といったネガティブな感想が多数寄せられたのです。
問題なく運用できていると思ったAさんは大慌てで現場メンバーにヒアリングを行いました。すると、操作マニュアルの誤記による運用の間違いと、仕様に関する不備が発覚しました。
Aさんは早速、問題点をすべて修正し、再度社内関係者に周知を行いました。その上で、現場メンバーに「おかしいと思ったら、もっと早く言ってもらえたらよかったのに」と伝えると、現場メンバーからは「そういう仕様なんだと思ってました」という回答がありました。
Aさんはその後、定期的な効果測定と改善を継続的に実施。導入から1年経った今では、成果も目に見えて上がっているということです。
システムが使いにくいと感じたとき、それを導入担当者に伝えてくる現場メンバーばかりではありません。大きな不具合や障害であれば当然明らかになりますが、小さな不備だと、「使いにくいけど、きっとこういう仕様なんだな」「無駄な作業が増えるけど、大した手間でもないし、仕方ないか」と考える人は意外と多いです。
小さな作業であっても、それが積み重なれば大きな工数となり、そうなると本来のシステム導入の成果を得られなくなってしまうでしょう。
そうしたことを防ぐ意味でも、効果測定はある程度早い時期に行い、問題点を吸い上げることをおすすめします。
今回のまとめ
今回は「システムの運用・保守」と「システム導入効果の測定」について解説しました。
システムを導入したら、必ず効果測定を行いましょう。効果測定を行うことで、システム導入の成果を把握することができます。
また、効果測定はシステム導入の目的に立ち返る良い機会にもなります。企画時の目的・ゴールに対して、今自社がどの位置にいるのか、方向性は間違っていないかを確認し、それに合わせてシステムを改善していきましょう。「システム」と「事業・業務」を両輪で進めてこそ、最終的なゴールは達成されます。
導入後もシステムを育てながら、プロジェクトのさらなる発展を目指してください。
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